間かも知れないと、気が滅入ってしまった。
誇張していえば、一町先が晴れても、そこだけが曇りその上を吹きわたる秋風の色がふと黒ずんで見えるような、そんな清閑荘だった。
建物も陰欝だったが、しかし、やがておシンに案内されて、木崎の部屋へはいって行った時、陽子は木崎の表情の陰欝さに驚いた。
木崎はちょうどドアをあけて、出かけようとしているところだった。東京の雑誌社から、
「シャシンイソグ……」
すぐ送らぬと間に合わぬという意味の催促の電報が来たので、断りの返事を打つため郵便局へ出かけようとしていたのだ。
「あら。お出掛け……?」
自動車で送って貰わなかったら、会い損ったわけだと、陽子はほっとしながら言ったが、
「…………」
木崎はだまって部屋の中へ戻りながら、ちらと陽子の足許を見た。その表情がぞっとするくらい陰欝だったのだ。
三
木崎の陰欝な表情については、
(なまなましい嫉妬が甦ったのだ)
と、一行の説明があれば、もはや明瞭だろうが、しかし、表情というものは、心理のズボンに出来た生活の皺だ。一行の説明はズボンの皺を伸ばすアイロンの役目をするだろうが、言葉のア
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