お前も来い!」
巡査は京吉と靴磨きの娘を、交番所の中へ連れてはいった。
なぜ呼びとめられたのか、京吉はわけが判らず、むっとして、
「何か用ですか」
「名前は……?」
「矢木沢京吉!」
「年は……?」
「二十三歳」
「職業は……?」
「ルンペン」
「何をして食べとる……?」
「居候」
「その娘は、お前の何だ……?」
「…………」
「なぜ答えぬ」
「お前といわれては、答えられん!」
「ふーむ。その娘は君の何だ……?」
「妹です」
「職業は……?」
「見れば判るでしょう……? 靴磨きです」
京吉はそう言いながら、陽子の方を見た。陽子は結局写されたらしい。そして、二言、三言、占領軍の家族と言葉をかわしたかと思うと、彼女たちのジープに乗った。
「あ、いけねえ!」
今のうちに掴まえなくっちゃと、思わずかけ出そうとしたが、
「どこへ行くんだ……?」
巡査の手はいきなり京吉の腕を掴んだ。
やがて、陽子を乗せたジープは、交番所の横を軽快な響きを立てて走って行った。
鳩
一
留置場では、釈放されて出て行く者を「鳩」という。
陽子はチマ子が予言した通り、一晩留置さ
前へ
次へ
全221ページ中116ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング