、頭を包んだ二人の女が、その女の前でジープを停めて、話し掛けていた。
 写真を撮らせてくれと頼んでいるらしい。女は困って、半泣きの顔で、ノーノーと手を振っている。
 コバルト色の無地のワンピースが清楚に似合う垢ぬけた容姿は、いかにも占領軍の家族が撮りたくなるくらい、美しかったが、しかし足には切れた草履をはいていた。
 図書館や病院で貸してくれるあの冷めし草履だ。その草履のために、写されることをいやがっているのだろうか。
 しかし、京吉は、その女がなぜそんな草履をはいているのだろうと、考える余裕もなかった。
 いや、眼にもはいらなかった。
「あ、陽子だ!」
 と思いがけぬ偶然に足をすくわれていたが、しかし、偶然といえば、その時、陽子が写真をうつされることに気を取られていなかったとしたら、陽子も京吉に気がついていたかも知れない。しかし、偶然は、陽子の視線を京吉から外してしまった。
 そして、更に偶然といえば――偶然というものは続きだすと、切りがないものだから――京吉が陽子の傍へ行こうとした途端、
「おい、君!」
 と、交番所の巡査に呼び停められた。
「何ですかね……?」
「一寸来たまえ! 
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