邪気な表情を残して、出て行った。
 そして河原町通りへ出ると、空の人力車がすれ違った。宿屋へ連れて行けといったが、車夫は、もう遅いから、宿屋はだめだ、それより安く飲ませて泊める家があるからと、一人ぎめの方角へ走り出した。
 途中、土砂降りの雨の中を濡れて歩いている女にすれ違った。芳子ではないかと思ったが、ひと違いだった。
 警察署の近くまで来ると、京吉は道端にたたずんでいる五十男の顔を見て、おやっと思った。田村で見たことのある銀造だった。銀造は車夫の顔を見ると、急にほっとした顔で、笑いかけて来た。



底本:「定本織田作之助全集 第七巻」文泉堂書店
   1976(昭和51)年4月25日発行
初出:「土曜夫人」読売新聞
   1946(昭和21)年8月31日〜12月8日(未完)
入力:佐藤洋之
校正:伊藤時也
1999年5月14日公開
2007年3月8日修正
青空文庫作成ファイル:
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