った。
「半時間も改札嬢と話してたのか」
 三人がそろったので小隊長は大喜びだったが、オトラ婆さんは鬱々としていた。鶴さんが帰って来ないのだ。だんだん夜が更け十二時が鳴った。鶴さんはやっぱりあたしを毛嫌いして帰らぬのだと、おろおろ泣きだしたところへ、電報が来た。照井が玄関へ受け取りに出て、配達人が一枝だったので、驚いた。
「やあ、自転車が役に立ちましたね。いつかあんなことをいって済みません」
 一枝はだまって暗い戸外へ出た。電報は「ゾ ウサンノタメシヨウガ ツヤスミヘンジ ヨウ」カエラヌ」ツルキチ」鶴さんからオトラ婆さんに宛てたものだった。婆さんはあたしゃ毛嫌いされていたわけじゃないと、すぐ旅ごしらえして、鶴さんのところへ行って選鉱婦をするのだと出掛けようとすると、三人は、じゃ俺たちも工場へ帰ろう。
 小隊長の面倒を千代はじめ三人の娘たちにたのむことにして一同が千代の乗合馬車に乗り込んだのは、もう夜明に近かった。海沿いの道を馬車は走った。途中、駅から帰って来る芳枝に会い、芳枝も乗った。白崎は誰の真似ともなく赧くなっていた。やがて昭和二十年の元旦の太陽が前方の海に昇りはじめる頃、いきなり
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