の噂をしているということが嬉しいのである。全く忘れられてしまうのが辛いのだ。その頃彼はこんな夢を見たといって私に語った。――病気もいよいよいけなくなり死んでしまった。どこかの家の二階の階段を上った狭くるしい場所で長くなって死んでいた。だらんと伸びた足が黒足袋をはいて階段に掛っている。お通夜に集って来た友人が変なところで伸びやがって、登り降りの邪魔だよ、だからノッポは困るんだなどと言っている。がやがやと騒がしいお通夜になって来た。ボートのバック台の練習をしながらワレハ海ノ子と歌いだす者がある。議論がはじまる。ラスコリニコフが階段の途中でペンキ屋にどうかされたとかなんとかシロサキが言っている。よせやい、お通夜じゃないか、静にしろとアオヤマが言うとオダが、いやこいつは派手なお通夜の方が喜ぶぜと言って、おいサエキそうだろうと声を掛ける。すると自分はそうだそうだ、おれは派手な方がいいんだ、陽気にやってくれと言って、ここで死んでちゃ邪魔なんだろうとむっくり起き上って一緒に騒ぎだし、到頭自分のためのお通夜の仲間にはいってしまったという夢である。それほど寂しがり屋なのだ。
しかし街は佐伯の孤独をすこ
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