のように、キョトンとして、暫く娘の蒼白い顔を見つめながら何やらボソボソ口の中で呟いていたが、やがて何思ったか、
「寿子、生国魂さんへお詣りしよう」
 と言った。
「パパ、ほんまか」
 寿子はあわててヴァイオリンをピアノの上に置くと、隣の部屋へかけ込んで、汗だらけのシュミーズの上に、よれよれの、しかし花模様のついたワンピースを着た。

       二

 上本町七丁目の停留所から、西へ折れる坂道を登り詰めると、生国魂の表門の鳥居がある。
 その鳥居をくぐって、神社まで三町の道の両側は、軒並みに露店が並んでいた。
 別製アイスクリーム、イチゴ水、レモン水、冷やし飴、冷やしコーヒ、氷西瓜、ビイドロのおはじき、花火、水中で花の咲く造花、水鉄砲、水で書く万年筆、何でもひっつく万能水糊、猿又の紐通し、日光写真、白髪染め、奥州名物孫太郎虫、迷子札、銭亀、金魚、二十日鼠、豆板、しょうが飴、なめているうちに色の変るマーブル、粘土細工、積木細工、豆電気をつけて走る電気仕掛けの汽車、……どれもこれも寿子の眼と口と耳を惹きつける店ばかりであった。
 が、庄之助はどの店の前にも立ち止ろうとせず、寿子の手をひっ
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