上に腹ばいになって、煙草ばかし吸った。私の喫煙量は急に増えて行った。
そして、私は放蕩した。宮川町。悔恨と焦燥の響きのような鴨川のせせらぎの音を聴きながら、未知の妓の来るのを待っている娼家の狭い部屋は、私の吸う煙草のけむりで濛々としていた。三条京阪から出る大阪行きの電車が窓の外を走ると、ヘッドライトの灯が暗い部屋の中を一瞬はっとよぎって、濛々とした煙草のけむりが照らされ、私は自分の堕落が覗かれた想いにうろたえて、重く沈んでいると、
「うわッ! えらい煙どんなア」
はいって来た妓の声がちくりと胸を刺し、その妓の顔は、彼女とはくらべものにならぬくらい醜く、下卑ていた。
仁丹を買うためにパトロンを作った彼女は、煙草も酒も飲まず、酒場のボックスでは果物一つ口にしない行儀のよさが、吉田の学生街のへんに気取ったけちくさいアカデミックな雰囲気に似合っており、容姿にも何かあえかなノスタルジアがあった。
そんな彼女が葉巻のにおいにむせている顔を想像しながら、私はなるべく妓の体と隙間を作って横になり、やけに煙草をふかしていた。妓は煙をいやがって、しまいには背中を向けたが、
「君!」と、振り向かせる
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