難波へ行く道の交番所の隣にあるしるこ屋で、もとは大阪の御寮人さん達の息抜き場所であったが、いまは大阪の近代娘がまるで女学校の同窓会をひらいたように、はでに詰め掛けている。デパートの退け刻などは疲れたからだに砂糖分を求めてか、デパート娘があきれるほど殺到して、青い暖簾の外へ何本もの足を裸かのまま、あるいはチョコレート色の靴下にむっちり包んで、はみ出している。そういう若い娘たちにまじって、例の御寮人さんは浮かぬ顔をして突っ立ち、空いた席はおまへんやろかと、眼をキョロキョロさせているのである。そして私もまた、そこの蜜豆が好きで、というといかにもだらしがないが、とにかくその蜜豆は一風変っていて氷のかいたのをのせ、その上から車の心棒の油みたいな色をした、しかし割に甘さのしつこくない蜜をかぶせて仲々味が良いので、しばしば出掛け、なんやあの人男だてらにけったいな[#「けったいな」に傍点]人やわという娘たちの視線を、随分狼狽して甘受するのである。
五年前、つまり私が二十三歳の時、私はかなり肩入れをしていたKという少女と二人でいそいそと「月ケ瀬」へ行った。はいるなりKという少女はあん蜜を注文したが、私
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