いて打っ放せば、ウアーンと唸り出すような力だ。
この力が千日前を、心斎橋を、道頓堀を、新世界を復興させたのだ。――と、しかし私はあわてているわけではない。なるほど、これらの盛り場は復興した。政府や官庁に任せて置けば、バラック一つ建ちようのない世の中で、自分たちだけの力でよくこれだけ建てたと思えるくらい、穴地を埋めてしまった。法善寺――食傷横丁といわれていた法善寺横丁の焼跡にも、二鶴やその他の昔なつかしい料理店が復活した。千日前の歌舞伎座の横丁――昔中村鴈治郎が芝居への通い路にしていたとかで鴈治郎横丁と呼ばれている路地も、以前より家数が多くなったくらいバラックが建って、食傷路地らしく軒並みに飲食店だ。などという話を見聴きすれば、やはりなつかしいが、しかし、
「大阪ですか。千日前も心斎橋も、道頓堀も、新世界も、あ、それから、法善寺横丁も、鴈治郎横丁も、みんな復興しましたよ。大阪は逞しいもんですよ」
と、さりげなく言って、嘯いておれるだろうか。
いつか阿倍野橋の闇市場の食堂で、一人の痩せた青年が、飯を食っているところを目撃した。
彼はまず、カレーライスを食い、天丼を食べた。そして、一
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