大阪の可能性
織田作之助

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)その「I《アイ》」の音の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「みそぎ」に傍点]
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 大阪は「だす」であり、京都は「どす」である。大阪から京都へ行く途中、山崎あたりへ来ると、急に気温が下って、ああ京都へはいったんだなと感ずるという意味の谷崎潤一郎氏の文章を、どこかで読んだことがあるが、大阪の「DAS」が京都の「DOS」と擦れ合っているのも山崎あたりであり、大阪の「DAS」という音は、山崎に近づくにつれて、次第に「A」の強さが薄れて行き、山崎あたりでは「A」と「O」との重なり合った音になって、やがて京都へ近づくにつれて、「O」の音が強くなり、「DOS」となるのである。山崎あたりに住んでいる人たちの言葉をきいていると、「そうだす」と言っているのか、「そうどす」と言っているのか、はっきり区別がつかない。
 字で書けば、「だす」よりも「どす」の方が、音がどぎついように思われる。「どす黒い」とか「長どす道中」とか「どすんと尻餅ついた」とか、どぎつくて物騒で殺風景な聯想を伴
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