た娘も色の黒い娘だったという。金で買うたというものの、私は妓を犯したのだ。飴をくれるような優しい妓の心を欺したのだ。私の悔恨は殺された娘の上へ乗り移り、洋菓子やチョコレエトを買わず、駄菓子の飴を買うて、それでわびしい安宿の仮寝の床の寂しさをまぎらしていたところに、その娘の悲しい郷愁が感じられるような気がし、ふと私は子守歌を聴く想いだった。
 死んでから四日も人に知られずに横たわっていたのも、その娘らしい悲しさだった。
 大阪劇場の女優たちが間もなく楽屋裏の空地の片隅に、その娘の霊を葬う地蔵を祀ったと聴いた時、私はわざわざ線香を上げに行った。

      三

 戦争がはじまると、千日前も急にうらぶれてしまった。
 千日前の名物だった弥生座のピエルボイズも戦争がはじまる前に既に解散していて、その後弥生座はセカンド・ランの映画館になったり、ニュース館に変ったり、三流の青年歌舞伎の常打小屋になったりして、千日前の外れにある小屋らしくうらぶれた落ちぶれ方をしてしまった。
 小綺麗な「花屋」も薄汚い雑炊食堂に変ってしまった。
「浪花湯」も休んでいる日が多く、電気風呂も東京下りの流しも姿を消して
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