ないのが彼の厄介な精神なのである。入口には破れ靴やボロ布や雑巾が頭と擦れる位の高さにぶら下げてあり、その一つの赤い布には「浜口雄幸氏三高時代愛用の褌」と御丁寧に木札がついていた。
(莫迦々々しい、何も浜口雄幸の褌まで担ぐ要はあるまい)
とくぐった途端、ガーンと銅鑼の音が鳴った。一人くぐる毎に、小使部屋で誰かが鳴らしているらしかった。
(流行らぬ寄席[#「寄席」は底本では「客席」]か化物屋敷じゃあるまいし……)そう心の中で呟いて、豹一は北寮、中寮、南寮の順に各部屋のデコレーションを見て廻った。南寮五番の部屋まで来ると、「虎退治」とデコレーションの題を書いたポスターが貼りつけてありながら、ドアが閉っていた。人々はドアがなかなかあかないので、これもデコレーションの機智の一つかというつまらなそうな顔をして立去って行った。実は「西田哲学」という題で、はいると「絶対無」と書いた紙片のほかになに一つなく、ガランとしていた部屋があったのである。豹一はドアをノックして、
「赤井! 赤井」と呼んで見た。
「誰だ?」赤井の声だった。
「僕だ、毛利だ」と言うと、ドアをあけてくれた。はいって見ると、赤井は裸の
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