のやりとりをしていた。
「喧嘩は止し給え」豹一が席に腰を掛けるなり、その一人がそう言って、盞を豹一に向けた。鼻の大きすぎるのが気になったが、感じの良い顔だと思った。もう一人の男が酌をしてくれた。その男は顎が尖っていた。が、べつに悪い感じの顔でもなかった。どちらも若い顔をしていたが、もう四十を過ぎているらしかった。
「君、顔が蒼いぞ」もうぐにゃぐにゃと酔っぱらっている赤井が言った。反吐を吐いたためだったが、豹一は興奮のためだと思われやしないだろうかと心配した。それで、見知らぬ男がついでくれた盞をぐっと飲みほした。
 騒いでいた連中は、「第三高等学校万歳! 昭和六年度記念祭万歳!」と気勢を揚げて、乱暴に入口の障子をあけて出て行った。
「あいつらは名刺にも官立第三高等学校第何期生と刷っていやがるだろう」
 豹一が言うと、鼻の大きな男は、
「辛辣だな。君達も高等学校なんだろう?」顎の尖った男と顔を見合せて、意味もなく笑った。豹一はむっとした顔をした。
「そんな変な顔をするなよ。どうも君達は気が短い。向うも若いが、君たちも若い。が驚いたね。一人が呶鳴ったかと思うと、一人が飛び出している。呼吸が合
前へ 次へ
全333ページ中85ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング