つかつかと僕の立っている傍へ来ると、僕の背中をつつきやがるんだ。なぜ、暗誦して来ないんだって。そいつは教師の言う文句じゃないか。教師も困って変な顔をせざるを得んよ。止せば良いのに、親父め一週間も経つと、またのこのこ参観に出て来るんだ。おかげで俺は今日は親父が来やしないかと、毎日ひやひやして、ろくすっぽ教師の講義も耳にはいらなかったよ」
「三高へは来ないのか?」と、半分慰めるように豹一が訊くと、赤井は瞬間変な顔をして、
「遠いからだ」と狼狽した。ふと豹一は、あれ[#「あれ」に傍点]は赤井の父親ではないだろうかと思った。入学の宣誓式の時、生徒主事のG教授が長時間にわたって生徒の赤化に就て注意的訓話を述べたが、G教授は物凄い東北弁で、喋っていることの意味がちっとも分らなかった。G教授の訓話が終った途端、うしろの父兄席にいた一人の紳士がいきなり立ち上って、「あなた今何を喋られたのですか。お言葉の意味が少しも分らないので、生徒はじめわれわれ父兄は不安且つ迷惑である。要旨をもう一度明瞭に言っていただきたい」と顔に青筋を立てて言った。「馬鹿! 坐れ」という者もあり、笑う者もあり拍手もあった。その紳士
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