いか」と、引き止めた。
 豹一は怖い顔をして、切符売場へ寄って行った。
「切符はいらんよ」土門が言った声も、殆んどきこえなかった。
 黒い幕をあげて、なかへはいると、いきなり多鶴子の声だった。顔だった。肢態だった。幅のひろい、しかし痩せた肩をいからせ気味に、首をうしろへそらして、うっとりとした眼で、男に取りすがり、
「…………」
 なにを言ってるのか、豹一にはききとれなかった。涙がいっぱいの気持だった。なまなましい多鶴子の肢態の記憶が豹一の胸をしめつけていた。痛いような嫉妬が、多鶴子の白い胸のホクロひとつにまで哀惜を覚える心とごっちゃになって、豹一は身動きもせず、じっとスクリーンを見つめていた。
 だんだんたまらなくなってきた。
 写真のなかの多鶴子はピストルを握って、男に迫った。
「こりゃ。良きじゃね」
 土門が豹一に囁くために、ふと横を向くと、いつのまにか豹一の姿が見えなくなっていた。

      五

 小屋を出るとすっかり夜だった。盛り場の灯がチリチリと冷たく、輝いていた。
 豹一は薄暗い電車通に添うて、谷町九丁目の方へ帰って行った。
 下寺町の坂下まで来ると、急にぱっと明る
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