る。「さあ、いやな奴を追っぱらった。もう二人きりね」
多鶴子は豹一の傍にぴったり体をつけて坐りながら言った。昨夜から妙にそわそわと落ち着かなかった母親も、多鶴子に無理に説き伏せられて、温泉へ行ってしまった。残るのは女中だけだった。
豹一と多鶴子の仲が心配していた通りになったとはっきりわかると、ひそかに豹一に恋をしている女中は、すっかりしょげてしまって、溜息ばかしついていた。泪ぐむことさえあった。
多鶴子はさすがにそれを気づくと、豹一にそのことを冗談めかして言った。
「あんた罪な人ね」恋をすると、いくらか下品な調子が出るのだろうか、多鶴子はそんな風に蓮っ葉に言って、豹一の膝をつねるのだった。
「痛ア!」そんな声を出す自分を、豹一はさすがに浅ましいと思い、昨夜来谷町九丁目の家へ帰らずにいることをふっと思い出し、「お帰り、えらい遅かったな。はよ寝エや、炬燵いれたるさかい」といういつもの母親の声が遠くからチクチク胸を刺して来るのだったが、もはや嫉妬のためにますます多鶴子への恋を強められている豹一には、多鶴子の傍をはなれて家へ帰るなど到底出来そうにもなかった。
ふとした拍子に豹一が自嘲的
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