子が、不意に顔色を変えて言葉をのみこんだ。真蒼な痙攣が多鶴子の横顔に来た。おやっと思った豹一の眼に、大丸の扉を押して出て来た男の姿が、なぜか止った。
バンドのついた皮の外套を短く着て、ゴルフ用のズボンを覗かせていた。縁なしの眼鏡の奥から、豹一をじろりとにらんだ。が、その前にその男は多鶴子の顔を見ていた。そして、あっという顔付きで立ちすくんでいたが、やがて固い歩き方で寄って来ると、
「暫く……。どうしてるの」と、多鶴子に言葉を掛けた。
「…………」多鶴子はハンドバッグの金具をパチンとしめなおした。かすかに手がふるえていた。
「新聞で見たよ、『オリンピア』に出ているんだってね? ――まあ、元気でやりなさい」豹一の方をじろりと見てから、もう一度多鶴子の顔を見た。多鶴子は、
「ありがとう」と、小さく言った。男は手をあげて、
「じゃ」行ってしまった。
「あ」多鶴子は靴の踵をちょっと動かしたが、あとを追うのを思い止った。そして、暫く立ちすくんでいたが、やがて物も言わずに歩き出した。
「誰ですか?」豹一はやっと訊いた。
「矢野さん」それっきり多鶴子は口を利かなかったから、豹一はいや応なしに、「私は
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