のである。
(しかし、私の言ってることは嘘じゃない)彼女はそう思った。(少くとも私は自分の人気よりも矢野さんを愛していた)
 咄嗟にそう信ずることが出来た。永い間、自分に言いきかせて来たから、もはや、それ以外の考え方が出来なかったのだ。いわば、彼女の固着観念になっているのであった。
 しかし、この固着観念を人前ではっきり述べるのは、いまがはじめてだった。彼女はこんなところでそれを言いたくないと、思った。「世間の眼」へのはじめての抗議を、こんな喫茶店のなかでしたくなかった。ことに相手は、新聞記者という点を勘定にいれるにしても、ともかく子供すぎるほど若い男なのだ。
 しかし、多鶴子は豹一がびっくりした表情で熱心にきいてくれているらしいのを見て、いくらか張りあいがあると思った。たしかに豹一は、多鶴子の言葉に心を惹かれていた。自分の「批判」が辛辣であっただけに、一層彼女の言葉を信ずる気持が強かった。(土門なんかの言葉があてになるもんか!)と思った。
 多鶴子は人なかだという点を考慮して、声を低めねばならなかった。感情がたかまっているのに、声を低めねばならないということは、自分の悲しさを一層深め
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