めは誰が二番になるやろな」クラスの者を掴えて言うのだった。
 これは随分鼻についた。クラスの者はうんざりし、豹一がそんな風に首席に箔をつけたがるので、いつかそれをメッキだと思い込んだ。
「あいつはたかが点取虫だ」
 一学期の試験の前日、豹一は新世界の第一朝日劇場へ出掛けた。マキノ輝子の映画を見、試験場へそのプログラムの紙を持って来て見せた。
 そのことが知れて豹一は一週間の停学処分を受けた。一週間経って、教室へ行くと、受持の教師が来て、出席点呼が済むなり、
「此の級は今まで学校中の模範クラスだったが、たった一人クラスを乱す奴がいるので、一ぺんに評判が下ってしまった。残念なことだ」とこんな意味のことを言った。自分のことを言われたのだと豹一はポンと頭を敲いて、舌を出し、首を縮めた。しかも誰も笑いもしなかった。それどころか、そんな豹一の仕草をとがめるような視線がいくつかじろりと来た。豹一はすっかり当が外れてしまった。
 やっと休憩時間になると、豹一はキャラメルをやけにしゃぶっていた。普通、級長のせぬことである。案の定、沼井という生徒が傍へ来て、
「君一人のためにクラス全体が悪くなる」とわざと
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