。いま寝ようと思っていたところだよ……」母親はなにか狼狽して、「……炬燵が熱すぎたので、外へ出して冷ましてから寝ようと思って……」
 そんな風に弁解する母親が、多鶴子はおかしいと思うより、むしろつんと胸にこたえて悲しかった。昨夜も多鶴子が帰るまで寝ようとしなかった。長火鉢の前でじっと坐ったまま、欠伸ひとつせず待っていてくれたのかと、多鶴子はそんな母親の心配がむしろ悲しく心配しないでも良い、大丈夫だ、さきに寝ていてくれと、あれほど言ったのである。ところが、やはり今夜も起きて待っていた。そして心配の余り寝られなかったという気持をごまかすために、炬燵なんかひきあいに出しているのだ。以前はこんな風ではなかった。撮影の都合で帰宅がおくれるなど珍らしくなく、思いがけぬ徹夜撮影で家をあけることさえあったのだが、わざわざ電話で断るまでもなく、母親は安心して寝ていたのである。
 女優になる前ダンサーをしていた頃もそうだった。ダンサーになりたての頃、一度無断で家をあけたことがあった。女友達の下宿で長話をしている内に電車がなくなり、泊めてもらったのだが、夜なかに公衆電話が掛って来た。母親から掛けて来たのだっ
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