の中に残っていた。佐古は名刺を握りしめたまま、入口の方へ駆けつけた。ボーイはあとを追うて、
「こっちの方です」
出入商人や従業員が出はいりする勝手口の方を指さした。
三
わざと閉店近くの夜十一時過ぎ、豹一はひきずるように着た長いオーバーのポケットに両手を突っ込んで、「オリンピア」の前へ現われたのだった。
ジャズバンドの音が気おくれした豹一を押しのけるようになかからきこえて来て、道頓堀のアスファルトを寒く乾かしていた。
なんということか、豹一は何度かためらった挙句、ボーイや女給たちが並んでいる正面の入口からはいる気がせず、「男ボーイ入用」「雑役夫入用」「淑女募集」などの貼紙が風にはためいている勝手口から飛び込んだ。
そこにボーイがいて「なんぞ用だっか」とじろりと見られた。あるいは、若い豹一を見てボーイに雇われに来たのだと思ったのかも知れぬ。豹一のようないくらか蒼ざめた、顔かたちの整った青年は、ボーイにうってつけなのだ。
「新聞記者のものですが……」うろたえた豹一は、「新聞社のもの……」というところを、そんなへまを言ってしまった。
「名刺もったはりまっか」
なる
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