に佐古は昨夜一晩中無気力な嫉妬に苦しんで、眠れなかったぐらいであった。が、今夜の佐古は昨夜よりいくらか変っていた。村口多鶴子を諦めるのは未だ早いと思ったのだ。諦めるわけもなかった。経営者と張りあう気持が少しだが生れて来たのだった。いわば、経営者へのひそかな反抗だった。この反抗心は今日店へ来て多鶴子の姿を一眼見た途端、いきなりふくれあがったのだ。
(経営者も糞もあるもんか? 馘首にするならしやがれ。ここを追い出されたっておれは水商売仲間ではつぶしがきく男や。それに、あの女をおれのものにしたら、あの女でおれは食って行けるのやないか)そう思うと、もう佐古の足は自然に動き出して、多鶴子のいる客席の方へ歩き出した。「いらっしゃいませ」
佐古はまず客の方へ挨拶して置いてから、揉手の手をほどき、多鶴子の肩をとんと敲いて、「ちょっと」柱のかげへ呼んだ。
「……? ……」固い表情で多鶴子は寄って来た。強い香水の匂が佐古の鼻の穴の毛をふるわせた。すっかり興奮してしまった佐古はわれを忘れて、ぐっと多鶴子の体へもたれかかるようにしながら、多鶴子が擽ったくて我慢が出来ぬほど耳近く口を寄せて、
「あんたに注意し
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