ヴィユしていたが、もはやそれでは二番煎じだから、「オリンピア」がカンバンになってからの彼女の尾行記をものするのだ。誰をその任にあたらしたものかと、編輯長は硝子扉ごしに編輯室のなかを物色した。
 ある者は机の上で夕刊用の原稿を書いている。ある者は電話を掛けている。ある者は新聞のとじこみを見ている。用事のない者は、ストーヴのまわりに集って、がやがやと雑談している。それらの顔をひとつひとつ見て行ったが、どれもこれも適任者と思えるものがなかった。ふと、隅の方に一人仲間はずれて固い姿勢で突っ立っている豹一の姿が目に止った。まるで、何ものかに向って身構えているような、いらいらした姿勢だったので、いやでも編集長の目を惹いた。その美貌にも注意を惹くものがあった。
(あの男誰やったかな?)
 忘れっぽい癖の編輯長は咄嗟には思い出せなかった。
 入社してから半月経っていたのだが、全くの見習記者に過ぎぬ豹一は、仕事らしい仕事も与えられず、ただ意味もなく毎日出社しているだけのことだった。だから編輯長はうっかりと豹一の存在を忘れていたのだった。ところが、いまよく見ると、豹一の印象は群を抜いて異常なものがあった。
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