店の女の子たちは、くすくす笑っていた。土門は、なにがおかしいと、にらみつけて置いて、珈琲を一息にぐっと飲みほし、「元気を出せ!」と、誰にともなく言った。豹一はそれを自分のことのようにきいて、はっとした。土門の電話口での話に、すっかり気が滅入っていたからである。
 しかし、なぜ気が滅入ったのであろうか。豹一は土門のようにとりとめないことを言う男の言葉は注意してきくまいと思っていたから、最初のうちはなにげなくきいていたのだが、土門の口から東銀子という名前が飛び出した途端に、どきんとした。そして、どうやら、東銀子が文芸部の北山に「手をつけられた」ことに、土門が抗議しているらしいとわかると、にわかに心が曇ったのである。どうせ、土門の言うことだから、出鱈目にちがいないだろうと、あわてて打ち消してみたが、しかし、先刻土門がそわそわと小屋を出てしまったのは、舞台の銀子を見てなにか察したのであろうと思えば思われたし、それに、ふざけた調子ではあったが、土門の電話での抗議ぶりには、いくらか本当めいたものがあるとも思われた。また、たとえそれが全く根もない事実に過ぎないと、無理に自分に言いきかせることが出来た
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