「もし、もし、弥生座……?」
 どこへ掛けるのかと思っていたら、つい鼻の先の今出て来たばかりの弥生座へ掛けているのだった。いかにも土門らしいと、豹一は思った。
「文芸部の北山君を呼んでくれ。……土門だよ。ツ、チ、カ、ド……東洋新報の……。あ、そう」
 喫茶店の隣は銭湯だった。湯道具を前垂に包み、蛇の眼の傘をさした女が暖簾をくぐって出て来た。豹一は窓硝子の曇りを手で拭って、その女の後姿がぼうっと霞んで遠ざかって行くのを、見ていた。
 再び土門の大きな声が聴えて来た。相手が電話口へ出たらしかった。
「――挨拶は抜きだ。雪どころの騒ぎか! おいけしからんぞ! 貴様なぜおれに黙ってあの娘に手をつけた? ――誰のことだとはなんだ? いわずと知れた……そうだよ、東銀子だ! 二度も言わすな。――その通り、東銀子だ! ――なに? もう一ぺんいってみろ! よくわかったねとは何ごとだ! 余人は知らず、あの娘に関してはだね、そんじょそこらの桂庵より見る眼はもってるんです。一眼見りゃわかるんだ。温泉場の三助じゃねえが……わかるんです。――ああ、お説の通り、わいはぞっこん参ってまんねん。何がわるい? 貴様も
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