、「おかげをもちまして質受け出来ました」と真夏にわざと冬服である。そして、そういった尻から同僚に金を借りている。
「月給があがったんだろう! 貸し給え」
 以前はそういうことはなかった。むだな冗談口ひとつ敲くようなことはなかったのだ。無口だが、しかしたとえば編輯会議などでは、糞真面目な議論をやったものである。観念的だとか弁証法的だとか、妥協を知らぬ過激な議論をやっていたものである。なんでも学生時代からある社会運動に加っていたとかいうことで、そういえばたしかにそんな理窟っぽい口吻があった。
 ところが、急に変りだしたのである。実にふざけた男になってしまったのだ。ある日、退社時刻の六時が来ると、いきなり眼覚し時計が鳴り出した。驚き、かつ笑いながら社員たちが音のする方を見ると、土門は悠々と自分の机の上にある眼覚し時計の音を停め、さっさと帰ってしまった。――その日から、土門は変ったと見られた。
 まず第一に、土門は社に不平があるのだろうと噂された。退社時刻に眼覚し時計を鳴らすのは、何かのあてこすりだろうということになったのだ。丁度、土門の後輩が部長に昇進して、創立以来の古参の土門には気の毒なこ
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