った。銀子は、
「北山さんはお酒のむから、きらいやわ」
北山をげっそりさせた。
噂によると、これまでどの女優にもそんなことをしなかった品行方正の北山が、舞台稽古の時たまりかねたのか、銀子をわざわざ舞台裏へ連れ込んで、永いこと銀子の頭に手をのせていたということである。銀子は随分いやがっていたということである。北山はすっかり面目をなくした。
しかしそんな噂のおかげで、そしてまたしょっちゅう銀子の身辺から眼を離さなかったおかげで、銀子はどうやら此の一月無事だった。
ところが、昨夜徹夜で舞台稽古をしたとき、北山は不覚にも泡盛に足をとられて、千日前の金刀比羅の境内で打っ倒れていた。その隙に、銀子は誰かに女にされてしまった。と、知ると、北山はやけくそになって朝っぱらからの迎酒に泥酔したあげく、ふらふらと二階の客席にまぎれこんで、しきりに銀子の名を呶鳴り出したのだった。
頭の上まで足をあげながら、銀子は身が縮む想いだった。
「銀ちゃん、頑張れ、頑張れ!」
北山は立ち上って銀子の踊りに合わせて、あやしげな身振りで踊りだした。どっと、笑い声が起った。見物人は舞台より二階の余興の方に気を取られ
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