ら、随分人眼をひいた。おまけに彼は美貌だった。つまり彼女たちに言わせると、一風変っていたのである。
眉毛を細く描いた眼の細い女が、豹一のテーブルへ近づいて来て、
「あんた、ボタンがとれちゃってるわよ」と、豹一の上衣にさわった。彼女も、もし豹一が赧くなっているのでなかったら、こんな風に馴々しくしなかったのだ。普通、若くて美しい男は蒼い顔をして、じっと眼を据えているものである。つまりどこか不良くさいと、一応は敬遠されるものだ。豹一はおどろいて、上衣を見た。二つともボタンがとれていた。一つは戎橋の上でちぎって捨てた記憶はあるが、あとの一つはどこでとれたのかわからなかった。
「恋人につけて貰いなさいよ。みっともないわよ」私がつけてあげますよと言わんばかりだったが、そんな眼つきがわかるほどには、豹一はすれていなかった。
「恋人なんかあるもんか」殆んど口に出かかった言葉をぐっとのみ込んだ。紀代子のことがちらりと頭に泛んだからである。恋人がないということが、この際なにか恥しいことのように思えた。なお、ボタンがとれていることも、なにか失業者じみている。だいいち、上衣のボタンの無いのが眼につくのは、寒
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