ちいち礼を言わねばならないのが情けなかった。いつものように、午後の日射しが執拗にはいって来た。額から流れ落ちる汗が瞼を伝うと、まるで涙を流しているのではないかと、思われた。いつか豹一は、大声で歌を唄っている自分にびっくりした。そうでもしなければ、その機械的な仕事に堪えられなかったのだろうが、動物じみて大声を出している自分がさすがに浅ましかった。
 いきなり肩を小突かれた。体が宙を飛んでいるような甘い快感がはっと破れて、にわかに眼の前が明るくなった。立ちながら、うとうと居眠りをしていたらしかった。眼が覚めた拍子に、手は反射的に新聞を畳んでいたが、「居眠りしてる場合やあれへんぜ。しっかりしてや」そう言って、社長はなおも二、三回豹一の肩を小突いた。咄嗟に豹一の頭は、牛乳の瓶をがちゃんと机の上へ敲き割って、そこを飛び出すことを想った。
(こんなに侮辱されても、未だここで働きたいのか? 単にいやなところだというのではない。侮辱されたんだぞ)豹一の眼は久し振りにぎらぎら光って、部屋の中をにらみ廻した。が、ふと社長の妻君がせっせと帯封に糊をつけているのを見た途端、その光はあっけなく消えてしまった。社
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