いよいよノートを拡げたが、野崎のために四時間も無駄にしたかと思うと、阿呆らしくて気乗りがしなかった。
「野崎、そう悄気るなよ」と、豹一が慰めたが、野崎は虚ろな表情で、しきりに責任感に悩まされていた。そんな野崎の気持がほかの二人にも乗り移って、結局わざわざ疏水伝いに銀閣寺の停留所附近まで出掛けて、珈琲をのんだりし、ろくに勉強も出来なかった。豹一は諦めて、先に秀英塾へ帰ってしまった。野崎と赤井は出町まで足をのばして、徹夜に備えるのだと珈琲を何杯ものんだ。下宿へ帰っても、無駄話ばかりで、なんのための徹夜かわからぬありさまだった。そのため歴史の試験は散々だった。おまけにそれに気をくさらして、あとの試験も上出来とは言えなかったのである。
だから今度の落第はかえすがえす野崎に原因していると言えば言えたのだ。が、それを自覚してすっかり気をくさらしている野崎を見ると、二人はそれには触れなかった。
京極へ出ると、先ず「リプトン」へはいった。それから「ヴィクター」へはいった。出ると、長崎屋の二階へあがった。豹一はそのたびに、もはやここも見収めかと、さすがにしみじみとなつかしい眼で、部屋の中を見廻し
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