は何だね?」
「はあ」豹一はさすがにもじもじしていた。その赧くなっている顔をH教授はちょっと可愛いと思った。独逸に留学していた時、こんな顔をした中学生がビールの飲み競べをやっていた。こいつは余り飲めそうにもない。姉の結婚式で二、三杯盞をなめて、ふらふらになって泣き出す手合だろう。
「僕は朝から算盤を手から離したことがないんで。点数の勘定で忙しいんだよ。用件を早く言ってくれ給え」
「はあ、その点数のことなんですが」
「点数のことは致し方ないよ、どうにもならないよ」
「なりませんか? そうですか」豹一は思わず立ち上りそうになった。人に頭を下げるのがいやなのである。が、さすがに、これは思い止った。実は、朝から赤井、野崎らと手わけして悪い点を取りそうな教授を訪問しているのである。赤井は日頃H教授に睨まれているし、野崎はひどく成績が悪そうだし、三人のなかでは比較的成績のましだと思われる豹一がH教授訪問の役に当ったのである。その役を果さぬうちはやはり帰れなかった。
「実は赤井と野崎のことなんですが、先生の独逸語の成績がひどく悪いらしいのです。――二学期はわりに良く出来たんですが、一学期の点が悪いん
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