、一人の生徒の及落を決めるために、まる半日潰れてしまうようなことがあった。が、ことしは一人の生徒に十分も手間どるようなことはなかった。いちいちその生徒の一生の運命まで考えていたら、きりの無いところである。毎年懐疑的な教授も今日は点数という極めて合理的な決定法に絶対の信用を置いた。
豹一、赤井、野崎の三人の及落決定も十分とは掛らなかった。三人一束に審議されて、簡単であった。欠席日数が三人とも規定を超過していると聴いて、さっさと小用に立った教授もあるくらいだった。おまけに、品行もわるく、成績不良だった。ことに、独逸語の成績がひどく悪かった。
「どうですな、Hさん」誰かが独逸語のH教授にそう訊いた。H教授が、「もう一年僕の講義を聴かしますかな」と言えば、もうそれきりなのである。
「いやあ、僕には意見がありませんよ。及落どちらでも結構ですな」H教授はそう言ってにやりと微笑った。
「三人とも落第ですな」
「ええ、三人とも――」H教授は嬉しそうにうなずいた。なにかしら満ち足りた気持だった。H教授は昨夜毛利豹一が自分を訪問して来たことをちらと想い出していたのである。
書斎に通すなり、
「君、用件
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