崎は赤井や豹一と一緒に四条通へ出ると、もう宮川町へ行かなければならぬと思い込んでいるらしかった。宮川町が見える「八尾政」へビールをのみにはいったりすると、もうそれは決定的なものになったという顔をするのである。そしてそのための資金を如何にして作るべきかをしきりに考えるのである。京都にある二軒の親戚からはもうこれ以上借りられないぐらい借金してしまった。質に置くものもない。そんな結論に到達すると、彼は赤井の青春のために済まなくなって来る。そしてまた、そのような青春に背中を向けて今夜も一人で帰って行くだろう豹一に対しても、何か済まない気がするのだ。「八尾政」を出ると、はじめて野崎はおずおずと口を切るのだった。
「赤井、金《ゲル》なんとかしようか?」
「うん、そうだな。しかし、べつに今夜は――」そう赤井が言うと、野崎はなにがなんだか分らなくなって来るのだ。赤井の青春説を改めて考え直すのだ。
「君さえ構《かめ》へんかったら、なんとかするぜ」
「当《あて》あるのか?」
そう言われると、野崎ははじめて釈然として来て、嬉しそうな顔をするのだ。
「あるぜ」
「そうか。そんなら僕どこで待っていようか?」
前へ
次へ
全333ページ中102ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング