来が自分の行動の効果が気になる質であった。たいして赤井と違いはしない。だからこそ、赤井の中にある虚栄に反撥したくなるのだった。豹一は赤井という鏡にうつった自分の姿に知らず知らず腹を立てていたのだ。
「そうだ、健全らしいよ」豹一はちょっと皮肉って見た。赤井は敏感にそれを察した。大袈裟に、
「僕の行為は軽蔑に値するか知らないが、しかし、肉体の解放は極く自然なんだ。不自然な行為のかげにこそこそ隠れているより、大胆に自然の懐へ飛び込んで行く方が良いんだ。汚れてもその方が青春だ。僕のように敢然と実行する勇気のない奴は、僕を軽蔑する振りで自分の勇気の無さを甘やかしていやがるんだ」
(自分の行為を弁解しているのだ)と豹一は思った。が、実のところ、彼にはこのようにうまく理窟が言えなかった。だから、彼は、
(こいつがこんなに弁解ばかりしているのは、気の弱いせいだ)と思うことにした。彼は冷笑的に黙々としていることによって、やっと赤井の圧迫から脱れられると思った。
(こいつはこんな自己表現にやっきとなっているが、俺は一言も今晩の計画に就ては喋っていないぞ)
そう言い聴かせることによって、豹一は黙っている状態に意味をつけた。しかし、豹一自身気がついていないことだったが、彼がそんな風に黙っていたのは、なにか奇妙な困惑に陥いっていたからでもあった。彼は赤井の興奮に強いられて、その共鳴を表現することを照れていたのである。芸もなく赤井と一緒に興奮して、青春だ、青春だと騒ぐのが恥しいのである。つまり彼は自分の若い心に慎重になっていたのだ。美しい景色をみて陶酔することを恥じる余り、その景色に苛立つのと同じ心の状態で、彼は赤井の若さに苛立っていたのである。豹一は告白という、青年につきものの行為を恥しく思う男だったのである。彼のように興奮にかられ易い男が、他人の興奮に苛立つのはおかしいと人は思うかも知れないが、しかし豹一の興奮には多少とも計算がまじっていた。だから彼は他人の若い興奮の中にも見えすいた計算を直ぐ嗅ぎつけてしまい勝ちだった。
赤井は豹一が少しも自分に共鳴しないのを見て、酔わす必要があると思った。豹一だけが自分の心を解してくれる唯一の男だと思っていたのである。丁度京極の端まで来ていた。赤井は先に立って、花遊小路の方へ折れて行き、
「この小路の玩具箱みたいな感じが好きなんだ。僕はいつも京極へ来
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