なんとかいう女優のところへ行ったんだよ。そして、これを着変えて下さいって浴衣を出すとね、別室で着変えると思いきや、その女優はなんたることにや、奴さんの眼の前でぱっとだね……、とにかくあれだよ、浴衣ってものは素肌の上に着るもんだからね、しかし、まあ、おれなら眼をまわさないがね。奴さんともかくやられたらしい。あ、は、は、……凄い女優もいるもんだね」
「感心したか?」土門が口をはさんだ。
「おらあレヴュー小屋の住人だぜ。貴様はどうなんだ? 感心したろう」
「わてはろくろ首を見てもおどろかん。もっとも、見たこともないがね。――感心するとしたら、こちら様だろう」土門は豹一を指した。
豹一はからかわれていることに腹を立てる余裕もなかった。北山の話が豹一の心に与えた効果は、そんな余裕があるには、余りにどぎつすぎたのである。
その夜、豹一は二人に誘われて飛田遊廓で一夜を明かした。
高等学校時代、赤井や野崎に誘われても頑として応じなかった豹一も、いまは自虐的な気持から、二人のあとに随いて行った。
女は長崎県松浦郡の五島から来たと、言った。女が親元へ出す手紙の代筆をしてやりながら、いろいろ女の身の上話をきいた。
「こんな生活をどう思う?」
「馴れてますわ」
「はじめはしかし、いやだったろう? 悲しいと思ったろう?」豹一の顔は残酷なほど凄んでいた。
しかし、結局は金に換算される一種の労働に過ぎないと、女が思い諦めているのを知ると、だしぬけに豹一の心は軽くなった。今まで根強く嫌悪していたものが、ここでは日常茶飯事として、取引されているのだ。
「平気だ! 平気だ!」
豹一は洗面所の鏡に蒼ざめた顔をうつしながら、声を出して呟いた。
(多鶴子とこの女とどちらがちがうのだ!)
けれども、さすがに部屋にいて窓の下を走る車のヘッドライトが暗闇の天井を一瞬間明るく染めたのを見ると、夜更のしみじみとした感じも手伝って、遠く多鶴子のことが慟哭の思いで頭にうかんで来た。
四
朝、豹一は魂の抜けたような気持であったが、心はようやく一時的に落ち着いていた。夜の色がだんだんに薄紫色に薄らいで行き、やがて東の空が橙色に燃え出すと多鶴子と別々にすごした悩ましい時間ももはやどこかへ消え去ってしまった想いで、じたばたと立ち騒ぐ心も諦めのなかに沈んでしまった。
しかし、土門や北山と別れて、ラ
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