血色がわるいですね」
豹一ははじめていくらか赧くなって、
「さっき車のなかで吐いたんです」苦笑しながら言った。
「それやいけませんね。酒は毒ですよ。あんた方にはまだ酒を飲むのは早い。よした方がいいですね」北山は日頃に似合わぬしんみりした口調で言った。
豹一はふっと温いものが胸に落ちる想いで、「はあ」素直にきいていた。
すると、土門が急に笑い声を立てた。
「北山からかうのはよせよ! 貴様がそんな意見が出来た柄か、あ、は、は、……」
北山の顔を、こいつめとにらみつけた。北山もちょっとにらみかえしぷっと噴き出しそうになるのをこらえながら、済ましこんでいた。
豹一ははじめて、北山にからかわれていたことに気がついて、気をわるくした。途端に多鶴子のことがチクリと刺す想いで想い出され、気持が沈んだ。
「おい、しっかりしろ」いきなり土門が肩を敲いた。「しょんぼりする手はさらにないと思うがね。愚僧なんかには、なんでそんなに面白くない顔をするのか、わかり、や、せんね。良い恋人をもちながら、まだ不平があるのかね? おい、こら? いっぺんどやしたろか?」
「恋人なんかありませんよ」
「ぬかしたな。村口多鶴子はどうした? ――そんな顔せんといて頂戴んか。ちゃんと聴込みがあるんでっさかい。惚れてるか、惚れられてるか、そこまでは知らんがね」
「惚れてませんよ」
「じゃ、惚れられてるのか? いよいよ以てけしからん」そう言ったが、すぐ土門は、「あ、なるほどわかった」と、大声を出した。
「痴話喧嘩だね。そうだろう?」
豹一は黙って体を動かした。
「痴話喧嘩ぐらいでくよくよするなよ。なんだ、あんな女。たかが村口多鶴子じゃないか」土門に言われて、豹一は、
「そうですよ。あんな女!」と、言って、こんにゃくをその気もなく口に入れた。口をもぐもぐ動かせながら浅ましい気持をしょんぼり噛んでいた。
「女優で想い出したがね」と、北山が口をはさんだ。「僕の友人で女優のプロマイドをうつすのを商売にしてる奴がいるんだ。そいつからきいた話だがね。そいつがね、浴衣の宣伝写真をうつすことになったんだ。いや、浴衣とはあんまり冬むきじゃないがね。しかし、まあ季節はずれと言えばね、その浴衣の宣伝写真はなんと五月頃にとるってからね。いや、こんなことはどうでも良いことだ。とにかく、奴さんその五月頃にだね、宣伝用の浴衣をもって
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