の男が、キョロキョロとはいって来ると、のそっと私の傍へ寄り、
「旦那、面白い遊びは如何です。なかなかいい年増ですぜ」
「いらない。女子大出の女房を貰ったばかりだ」済まして言った。
「そりゃ奥さんもいいでしょうが、たまには小股の切れ上った年増の濃厚なところも味ってみるもんですよ。オールサービスべた[#「べた」に傍点]モーション。すすり泣くオールトーキ」と歌うように言って、
「――ショートタイムで帰った客はないんだから」
色の蒼白い男だが、ペラペラと喋る唇はへんに濁った赤さだった。
「だめだ。今夜は生憎ギラがサクイんだ」
ギラとは金、サクイとは乏しい。わざと隠語を使って断ると、そうですか、じゃ今度またと出て行った。
ほかの客に当らずに出て行った所を見ると、どうやら私だけが遊びたそうな顔をしていたのかと、苦笑していると、天辰の主人はふと声をひそめて、
「今の男は変ったポン引ですよ。自分の女房の客を拾って歩いているんですよ」と言った。
「女房の客……? じゃ細君に商売をさせてるの?」
「そうですよ。女房が客を取ってるんですよ。あの男に言わせると、女房の客を物色して歩くようになってからはじ
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