だから僕の小説は一見年寄りの小説みたいだが、しかしその中で胡坐をかいているわけではない。スタイルはデカダンスですからね。叫ぶことにも照れるが、しみじみした情緒にも照れる。告白も照れくさい。それが僕らのジェネレーションですよ」
 私はしどろもどろの詭弁を弄していたのだ。「青春の逆説」とは不潔ないいわけであった。若さのない作品しか書けぬ自分を時代のせいにし、ジェネレーションの罪にするのは卑怯だぞと、私は狼狽してコップを口に当てたが、泡は残った。
 しかし海老原は一息に飲み乾して、その飲みっぷりの良さは小説は書かず批評だけしている彼の気楽さかも知れなかった。だから、
「君には思想がわからないのだよ。不信といっても一々疑ってからの不信とは思えんね」と高飛車だった。
「だから、消極的な不信だといってるじゃないですか」
 思わず声が大きくなり、醜態であった。
「それが何の自慢になる」
 海老原はマダムに色目を使いながら言った。私は黙った。口をひらけば「しかしあんたには十銭芸者の話は書けまい」と嫌味な言葉が出そうだったからだ。ひとつには、海老原の抱いている思想よりも彼の色目の方が本物らしいと、意地の
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