、娘さんは迷わなかった。結婚式を帰還するまでのばすのは、何か戦死を慮っているようで、済まないと、両親を説き伏せた。
 二日のちにはもう結婚式が挙げられた。支度もなにもする暇もない慌しい挙式であった。そして、その翌日の夜には彼ははや汽車に乗っていた。再び戦地へ戻って行くためである。十八歳の花嫁はその日から彼に代って彼の老いた両親に仕えるのである。

     ×

 私はこの話をきいて、いたく胸を打たれた。あるいはこの話は軍人援護の美談というべきものではないかも知れない。しかし、いま私は「私の見聞した軍人援護朗話」という文章を求められて、この話を書き送ることにした。この十八歳の娘さんのいじらしいばかりに健気な気持については、註釈めいたものは要らぬだろう。ひとはしばらく眼をつぶって、この娘さんの可憐な顔を想像してくれるがよい。



底本:「定本織田作之助全集 第六巻」文泉堂出版
   1976(昭和51)年4月25日発行
   1995(平成7)年3月20日第3版発行
入力:桃沢まり
校正:小林繁雄
2009年8月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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