好奇心
織田作之助

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)慄《わなな》く
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 殺された娘、美人、すくなくとも新聞の上では。それが宮枝には心外だ。宮枝はその娘を知っている。醜い娘、おかめという綽名だ。
 あたしの方がきれいだ。あたしの方が口が小さい。おかめなんていわれたことはない。宮枝の綽名はお化け。あんまり酷だから、聴える所では誰も言わなかった。お化け、誰のことかしら。声だけは宮枝も女だった。
 誰でも死ぬ。クレオパトラ。白骨にも鼻の高低はあるのか。文章だけが鼻が高いと書く。若くて死んだから。あたしは養生して二百歳まで生きる。奇蹟。化石になる頃、皆あたしを忘れる。文章だけに残る。醜い女、二百歳まで生きて、鼻が低かったと。そしてさらに一生冒さず、処女!
 殺されればあたしも美人だ。あたかもお化けがみな美人である如く。お岩だってもとは美人だったと、知らぬが仏の宮枝は、ぐさりとスリルを感ずる。知らぬが仏。全く何も知らぬ。チャンスがなかったのだ。手術みたいなものかしら。好奇心の病気! 盲腸という無用の長物に似た神秘のヴェールを切り取る外科手術! 好奇心は満足され
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