いれますか。――じゃ、荷物を先に入れなさい」
荷物を先に受け取って、それから窓にしがみついた女の腕を、白崎はひきずり上げた。びっくりするような柔かい感触だった。
女の身体が車内へはいったのと、汽車が動きだしたのと同時だった。
「どうもありがとうございました」
「いや、しかし、勇敢ですな」
「でも、窓からでないと……。プラットホームで五時間も立ち往生してましたわ。おかげで……」
「しかし、驚きましたなア。もっともロミオとジュリエットは窓から……」
と、言いかけて、白崎は赧くなっている女の顔を見て、おやっと思った。その美しさにびっくりしたのではない。いや、はにかんで眼を伏せると、長い睫毛が濡れたように瞼にかぶさって、まるで眠っているように見えるその美しさには、勿論どきんとしたが、しかし、それよりも。
「あのウ、失礼ですが、あなたはいつか僕らの隊へ、歌の慰問に来て下すった方ではないでしょうか」
「はあ……?」
半分かしげた首で、すぐうなずいたが、急にぱっと眼を輝かせると、
「あッ、高射砲陣地、想い出しましたわ。あなたは……」
彼女は「妻を娶らば才たけて、みめ美わしく情けあり、友を選
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