うのがまた面倒くさい。
「そんなわけで、大した金額ではないが、無効になった為替や小切手が大分あるのだ」
 という十吉の話を聴いて、私は呆れてしまった。
「どうして、そうズボラなんだ」
「いや、ズボラというのじゃないんだ。仕事に追われていると、忘れてしまうんだ」
「煙草と同じでん[#「でん」に傍点]で、折角仕事しても、それじゃ何にもならんじゃないか。仕事をへらして、少しは銀行へも足を運んだ方が得だぜ」
「へらしてみたところで同じことだよ。今の半分にへらしても、やはり年中仕事のことを考えてるし、また年中仕事をしているだろう。仕事がなければ、本を読んでるだろうしさ」
「仕事の鬼」だと私は思った。

       三

 私は早いとこ細君を探してやるのが彼のためだと思った。
 細君はすぐ見つかって話も纏ったが、戦争が終って雑誌がふえたりして、彼の仕事も前より忙しくなって来て、結婚どころの騒ぎではないという。それで、式をあげるのをのびのびに延期していたところ、金融非常措置の発表があった。旧紙幣の通用するうちに、式をあげた方がいいだろうと説き伏せると、彼も漸く納得して、二月の末日、やっと式というこ
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