るので、起きて食事を済まして、煙草を吸っているうちに、もう郵便局の時間がたってしまう。前の晩に頼めばいいというものの、彼は仕事に夢中でそんなことは忘れている。では、昼間食事の時に頼めばよいということになるが、茶の間にはペンがない。二階の書斎まで取りに行くのが面倒くさい。取りに上らせようと思っているうちに、もう忘れてしまう。
それでも、さすがに金がなくなって来ると、あわてて家政婦に行かせるのだが、しかし、払出局が指定されていて、その局が遠方にある時は、もう家政婦の手には負えない。六十八歳、文盲、電車にも一人で乗れないという女である。そんな家政婦は取り変えればいいわけだが、それが面倒くさい。
銀行の小切手になると、なお面倒だ。第一、銀行の取引がない。だから、いちいち指定の市内の銀行まで取りに行かねばならぬのだが、家政婦は市内の東も西もわからぬ女である。といって十吉が起きて行く頃にはもう銀行は閉っている。ずるずるべったりに放って置いて、やがて市内で会合のある時など早くから外出した序でに、銀行へ廻る。がもうその時は、小切手の有効期間が切れている。振出人に送り戻して、新しい小切手を切ってもら
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