顔をしていた。私は細君がいない隙をうかがって、
「どうした、喧嘩でもしたのか」ときくと、
「喧嘩はせんがね。どうもうまく行かん」
「立ち入ったことをきくが、肉体的に一致せんとか何とかそんな……」
「さアね」
と赧くなったが、急に想いだしたように、
「――そういわれてみて、気がついたが、まだ一緒に寝たことがないんだ」
「へえ……?」
「忙しくてね、こっちはあれから毎晩徹夜だろう。朝細君が起きてから、寝るという始末だ」
「そんなこったろうと思った。しかし、初夜は一緒に寝たんだろう」
「ところが、前の晩徹夜したので、それどころじゃない。寝床にはいるなり、前後不覚に寝てしまったんだ」
十日ほどたって、また行くと、しょげていた。
「何だか元気がないね」
「新券になってから、煙草が買えないんだ」
「旧券のうちに、買いためて置くという手は考えたの」
「考えたが、外出する暇がなくってね。仕事に追われていたんだ」
と相変らずだった。
「原稿料もどうやら封鎖になるんじゃないかな。どうせ書きまくったって、新券ははいらぬのだし、煙草も吸えぬし、仕事はへらすんだね」
そうなれば、夫婦仲もうまく行くだろう
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