が、いや、だからして、以下の数々の話につけた「起ち上る大阪」という題も、思えばまるで見当ちがいの出鱈目なものではなかったかも知れない。しかし、前書はもうこれくらいで充分であろう。
ある罹災者の話である。名前はかりに他三郎として置こう。そして私の好みに従って、他アやんと呼ぶことにする。
他アやんは大阪の南で喫茶店をひらいている。この南というのは、大阪の人がよく「南へ行く」と言っているその南のことであり、私もまた屡※[#二の字点、1−2−22]「南へ行く」たびに他アやんの店へ寄っていたから、他アやんとは顔馴染みであった。
私がこの他アやんを見舞ったのは、確か「復活する文楽」という記事が新聞に出ていた日のことであった。文楽は小屋が焼け人形衣裳が焼け、松竹会長の白井さんの邸宅や紋下の古靱太夫の邸宅にあった文献一切も失われてしまったので、もう文楽は亡びてしまうものと危まれていたが、白井さんや古靱太夫はじめ文楽関係者は罹炎[#「罹炎」はママ]に屈せず、直ちにこの国宝芸術の復活に乗りだしたのである。即ち、まず民間の好事家の手元に残っている人形を狩り集め、足らぬ分は阿波の人形師が腕によりを掛けて
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