競馬
織田作之助
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)どんより曇《くも》っていたが
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)第四|角《コーナー》まで
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朝からどんより曇《くも》っていたが、雨にはならず、低い雲が陰気《いんき》に垂れた競馬場を黒い秋風が黒く走っていた。午後になると急に暗さが増して行った。しぜん人も馬も重苦しい気持に沈《しず》んでしまいそうだったが、しかしふと通《とお》り魔《ま》が過ぎ去った跡《あと》のような虚《むな》しい慌《あわただ》しさにせき立てられるのは、こんな日は競走《レース》が荒《あ》れて大穴が出るからだろうか。晩秋の黄昏《たそがれ》がはや忍《しの》び寄ったような翳《かげ》の中を焦躁《しょうそう》の色を帯びた殺気がふと行き交っていた。
第四|角《コーナー》まで後方の馬ごみに包まれて、黒地に白い銭形紋《ぜにがたもん》散《ち》らしの騎手《きしゅ》の服も見えず、その馬に投票していた少数の者もほとんど諦《あきら》めかけていたような馬が、最後の直線コースにかかると急に馬ごみの中から抜《ぬ》け出してぐいぐい伸《の》び
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