の上手《じょうず》下手《へた》、距離《きょり》の適不適まで勘定《かんじょう》に入れて、これならば絶対確実だと出馬表に赤|鉛筆《えんぴつ》で印をつけて来たものも、場内を乱れ飛ぶニュースを耳にすると、途端に惑《まど》わされて印もつけて来なかったような変梃《へんてこ》な馬を買ってしまう。朝、駅で売っている数種類の予想表を照らし合わせどの予想表にも太字で挙げている本命《ほんめい》(力量、人気共に第一位の馬)だけを、三着まで配当のある確実な複式で買うという小心な堅実《けんじつ》主義の男が、走るのは畜生《ちくしょう》だし、乗るのは他人だし、本命といっても自分のままになるものか、もう競馬はやめたと予想表は尻に敷《し》いて芝生《しばふ》にちょんぼりと坐《すわ》り、残りの競走《レース》は見送る肚《はら》を決めたのに、競走《レース》場へ現れた馬の中に脱糞《だっぷん》をした馬がいるのを見つけると、あの糞の柔《やわらか》さはただごとでない、昂奮剤《こうふんざい》のせいだ、あの馬は今日《きょう》はやるらしいと、慌てて馬券の売場へ駈《か》け出して行く。三番|片脚《かたあし》乗らんか、三番片脚乗らんかと呶鳴《どな》
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