でだから、この一部をそこへ挿むことにしよう。
――もともと出鱈目《でたらめ》と駄法螺《だぼら》をもって、信条としている彼の言ゆえ、信ずるに足りないが、その言うところによれば、彼の祖父は代々|鎗《やり》一筋の家柄で、備前岡山の城主水野侯に仕えていた。
彼の五代の祖、川那子満右衛門の代にこんなことがあった……。
当時満右衛門は大阪在勤で、蔵屋敷の留守居をしていた。蔵元から藩の入用金を借り入れることが役目である。
ところが、ある年の暮、いよいよ押し詰まって来たのにかかわらず、蔵元町人の平野屋ではなんのかんのと言って、一向に用達してくれない。年内に江戸表へ送金せねば、家中《かちゅう》一同年も越せぬというありさま故、満右衛門はほとほと困って、平野屋の手代へ、品々追従賄賂して、頼み込んだが、聞き入れようともせず、挙句に何を言うかときけば、
「――頼み方が悪いから、用達出来ぬ」
との挨拶だった。
「――これは異なることを承る。拙者の頼み様がよろしからずとは、何をもって左様申されるか」
と、満右衛門が詰め寄ると、
「――貴方は、御主人の大切な用を頼むのに、手をお下げにならん。普通なら、両手
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