る。いや、それがしもその天下第一の風流男に会いとうなりました。お差しつかえなければ、お伴致しとうござる」
と言うと、無敵は、
「よくぞ言って下さった」
と、佐助の手を握って、ハラハラと落涙し、既に道場を荒された恨みなど忘れていたのは勿論である。
翌朝から、二人は首のない男を探して歩いた。
「運よく召しとって、奉行所へ突き出せば、奉行はじめ狼狽し、やがてその狼狽をかくすために、やい、首のなき者よ、汝盗賊を働かんとせし罪科軽からず、速刻打ち首に致すとあわてて申し渡すに相違ない。そこで貴公すかさず、あいや、首のなき者を打ち首にとは、いかにして行わるるや、後学のために拝見致したしと、言ってやれば、溜飲が下ると申すものでござろう」
と、佐助が言えば、そうだ、そうだと無敵は喜んで、佐助の機嫌をとるために、
「山本勘助どのは左めっかち、右びっこ、身の丈|矮《みじか》く色黒く、信玄どのも驚かれたという男振りでござったが、知慧にかけては天下第一の器量人でござったな」
などと佐助を喜ばせるような話を持ち出して、この旅は楽しかったが、肝腎の首のない男には一向に出会わず、これではいっそ、ろくろ首の棲
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